2014年2月3日月曜日

産学コラボプロジェクト報告―香りは学習時の集中力を変えるのか?―

2回目の執筆となりました北村です。今回は、私のゼミの2年生が2学期に取り組んできた産学コラボプロジェクトの報告をします。

今回コラボ先となったのは、ハーブ(薬草)やアロマテラピー(芳香療法)関連の国内トップ企業である「株式会社生活の木」さんです。三代目である重永忠社長が、初代・二代目の事業内容を変更し、まだ日本で「ハーブ」や「アロマ」という言葉が知られていなかった1970年代後半より、一代で築いた会社です。

今回のコラボは、重永社長に本学経営学部の講義「産業特論I」にて講演して頂いた後、「教育現場に香りは導入できませんか?」という私の一言がきっかけでした。その後、調べていくと、医療現場(例えば出産時の痛み緩和)や小売店・レジャー施設(例えばカジノでの賭け金増加)では香りの導入やその効果に関する研究がなされている一方、教育現場は導入・研究実績が相対的に少ないことが判明しました。これはぜひチャレンジしたい課題だ!ということで、2年生によるチームを結成し、プロジェクトがスタートしたわけです。

さて、先週129日に、このプロジェクトのひとまずの成果報告のため、同社の本社オフィスにてプレゼンテーションを行ってきました!

中央は重永社長。本学のOBでもあります。

今回検証した仮説は、
仮説1:「香りを導入すると、香りを導入しない場合よりも、学習時の集中力が高い」
仮説2:「香りのうち、集中力を高める効果が高い順は、覚醒系と鎮静系をブレンドした香り、覚醒系の香り、鎮静系の香り、となる」
2つでした。

・・・こう書いてしまうと簡単そうに見えますが、ここに至るにはもちろん沢山の準備が必要でした。

まずは、「先行研究のレビュー」。上述したように、香りの導入による効果を検証した文献を探し、どのような現場・領域での研究なのか、検証方法はどのようなものか、結果と課題は何だったのか、などを確認します。

次は、「研究課題の設定」。先に「学習時の集中力」と書きましたが、学習と言っても色々あります。国語、算数、英語といった科目はもちろん、国語の中でも、例えば漢字を書くには記憶力が、論説の読解では理解力や論理力が、小説への共感では想像力が問われるように、学習する内容やその時に必要となる能力は様々なのです。今回は、数値化しやすいという事情もあり、算数のうち一桁の足し算を繰り返す「クレペリン」というテストを用いて、集中力を測ることにしました。

さらに、「仮説の設定」も必要です。今回は、先行研究のレビューや、生活の木さんとの打ち合わせにより、覚醒系の香りと鎮静系の香りの両方の効果と、それらをブレンドした香りの効果を調べることにしました。上述した仮説2における香りの効果の順は、先行研究をふまえて予想しました。また、具体的な香りは、覚醒系はローズマリー、鎮静系はラベンダーとし、この精油1に対して無水エタノール10で希釈した液を、アロマディヒューザーという器材で芳香させることにしました。香りの選定や精油および器材の使用法については、生活の木さんからアドバイスやレクチャーを頂きました。

今回用いた器材。実際の調査では器材を隠し、調査目的や芳香させていることは被験者には内緒。

これで終わりではありません。いきなり本調査だと、期待していた結果が出なかった時にやり直しがききません。また、2年生のメンバーが調査手順に慣れる必要もあります。そこで、仮説内容や検証方法に問題がないかどうかを事前に確認する「プレ調査」を行いました。

こうした準備をふまえて、126日にいよいよ「本調査」を実施しました。といっても被験者が必要です。サークルやアルバイトで忙しい学生は多く、協力者を集めるのも一苦労でした。(なお、被験者募集時には、経営学部を中心に、多くのゼミ生およびその先生方にお世話になりました。有り難うございました!)
終了後、調査に使用した道具とともに。当日は3・4年生のゼミ生もスタッフとして協力。

本調査実施後は、「仮説の検証」です。このために、統計解析ソフトを用いて、分散分析という手法を用いて、香り(3種類)を漂わせた各部屋および香りのなかった部屋でテストを受けた学生の結果に、差があるかどうかを検証しました。もちろんこのためには、統計学および統計解析ソフト使い方の勉強が必要でした。

こうして先日の本社プレゼンとなったのです。なお、仮説検証結果は、仮説12ともに、「一部支持」となりました。1については、香り3種類のうち鎮静系の香りと、香りなしの部屋において、複数の指標で有意差が出ました(一つの指標については、鎮静系の香りと覚醒系の香りでも有意差あり)。2については、鎮静系の香り、ブレンドした香り、覚醒系の香り、香りなしという順になりました。本社プレゼンでは、こうした結果になった理由について考察を加えるとともに、この結果をふまえた商品や芳香サービスの提案をしてきました。

いかがでしょうか。調査・研究とは以上のように、勉強や話し合いを含めた準備に準備を重ねて進めるものであり、決して一発芸ではないのです。時間もかかりますし頭も使いますので大変ですが、それをやり遂げたメンバーは写真の通り、とてもいい顔をしていますよね! といっても今回はまだ始まり。この検証結果をふまえて、このプロジェクトが更に発展した際には、改めて報告したいと思います。


文責:北村真琴(流通マーケティング学科 准教授)