2016年4月30日土曜日

香港ディズニーランド取材報告

 流通マーケティング学科の丸谷です。11回目の執筆です。
 私はグローバル・マーケティング論(簡単にいうと海外でどのようにマーケティングを行っていくのか)を専門分野にしているので、海外に出張に行くことが多く、このブログでもインドやチリの出張の模様をこれまで取り上げてきました。

 今回は今年秋出版予定の「グローバル・マーケティング」の教科書の中で、取り上げることになった香港ディズニーランドの現地取材をしてきたので報告いたします。
開業10年を迎えた香港ディズニーランド

 ディズニーランドに関しては日本でも30年以上の歴史があり、皆さんご存じだと思いますが、日本以外での状況は知らない方も多いと思うので、ディズニーランドの海外展開について簡単に説明します。

 ディズニーランドは1955年にアメリカ西海岸のカリフォルニア州ロスアンゼルス郊外のアナハイムで開業し、大成功を収めました。1971年には東海岸のフロリダ州オーランドにアナハイムよりも大規模なディズニーワールドを開業しました。ちなみに、ディズニーワールドには動物園などもあります。

 2か所のアメリカでのテーマパークの成功後海外進出第1号として1983年に開業したのが東京ディズニーランドでした。

 東京ディズニーランドは皆様もご存じのとおり大成功を収めたのですが、ディズニー社は最初の海外進出であったこともあり、成功できるか確信もなかったので、現在も東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランド社(京成電鉄、三井不動産及び朝日土地興業という地元を知りつく尽くした3社)とのライセンス契約によって進出しました。

 この契約はディズニー社側がパークの設計と共に版権及び運営の指導・クオリティー管理を行う見返りに、入場料収入の10%と物販・飲料収入の5%のロイヤリティを獲得できるという内容でした。東京ディズニーランドの成功はディズニー社にとって毎年約50億円の収入をもたらし、当時経営が傾きつつあったディズニー社の経営を支える収入源ともなったといわれています。

 ディズニー社は日本での予想外の大成功の結果、海外進出を甘く見てしまった上、成功の理由が主に自社のブランド力の高さにあると考えてしまったようです。東京ディズニーランドの成功の理由はディズニー社の持つブランド力もありますが、パートナーとなったオリンエンタルランド社によるディズニー社の持つブランドをしっかり日本に定着させるために行った努力が大きいと考えられます。

 しかし、ディズニー社は東京以降の海外進出では成功の重要な条件である現地の状況にあわせる努力を担当したパートナーの存在を軽視し、自身の経営関与度を高めていくことを決定しました。その結果として、1992年パリ郊外に開業したユーロ・ディズニーと、今回取材した2005年香港郊外に開業した香港ディズニーランドでは、東京ほどの成功を収めたとは言い難く、苦戦を強いられています。

 苦戦の主な理由は現地の状況に合わせるために不可欠なマーケティング・リサーチにおける自己基準に基づく調査にあるといわれています。自己基準とは自身の文化的な規範や価値に基づいて判断を下してしまうことです(現地に合わせるための工夫に関しては、私が担当する『グローバル・マーケティング論』の授業では多く取り上げていますので、もしご興味のある方は入学後履修してみてください)。

 自己基準はエスノセントリズム(自民族中心主義)と綿密に結びついているといわれています。ディズニー社は出身国であるアメリカの文化的な規範や価値に基づいた思い込みによって進出する前の大事なリサーチの質問項目を設定しまったようです。

 例えば、海外進出第2号のユーロ・ディズニーの海外進出前のリサーチでは、テーマパークの食事はファストフードというアメリカの自己基準に基づいて行われてしまいました。そのため、欧州ではパーク内での食事でもゆったりととりたいというニーズがあることを無視し、調査はパーク内の食事はファストフードと決めていたため、当然ゆったりとしたレストランを作るための質問項目、例えばどのような雰囲気で、どのようなワインを欲しいか?などといった内容に関しては質問もしていないと考えられます。

 ディズニー社は食事に関する自己基準に関しては、1996年にディズニーランドパリスと名称変更した際には是正し、現在では高品質高価格ワインを提供するレストランも拡充しています。

 今回の香港での調査でも食事の工夫に関しては一定程度なされていることは確認されました(写真参照)。

         香港ディズニーランド内の中華料理レストラン
         (店内至るところに隠れミッキーも)


             ミッキー柄に切り抜かれた野菜も



 上記の工夫以外にも、パーク内のレストランに関しては、香港では多様な宗教に対応するように、イスラム食を提供するなど多様な工夫も見られていました。

 しかし、香港ディズニーの開業前にも、食事以外の項目において自己基準に基づいた調査がなされてしまったようです。その1つが多くの来客があると考えれる連休に関することです。中国の旧正月である春節の連休になると、多くの中国人の観光客の皆さんが日本を訪れているので、皆さんも知っているかもしれないですが、ディズニー社はこの一大イベントを軽視していたようです。
 
 春節における中国人客の動きをくみ取るための事前調査を怠ってしまったようです。そのため、期日指定なしの前売りチケットを持った顧客が入場できないといった混乱が生じ、その他の期間でもスムーズな入場ができないのではという誤ったイメージが伝わってしまいました。
 
 香港ディズニーランドは当初の失敗を反省し、2006年以降香港市民、香港空港利用者及びディズニーホテル利用者向けの入場券を割引する、3つのテーマランドの増設を発表するなどの梃入れを行いましたが、当初の思惑とはかけ離れた結果となっています。


           香港独自エリア グリズリー・ガルチのコースター


 2016年には上海ディズニーランドが東京ディズニーランドを上回る規模で開業するようですが、上記2パークの苦戦を経て、自己基準の問題を改善したマーケティング・リサーチが当初行われたのかという観点から今後も見ていきたいと考えています。
 
 なお、私が訪れたのは他の調査の日程の関係上、日曜日でしたが、パーク内はほとんどがらがらで、ほぼすべてのアトラクションはほぼ待ち時間がなく体験することができました。

 パレードやショーもさすがディズニーと思わせる素晴らしいものでしたし、日本のディズニー好きの皆さんにとっては穴場なのかもしれません(さらに、上海にディズニーランドができた後は)。

文責:丸谷雄一郎(流通マーケティング学科 教授)